路上の感触 by 中原元

古代中国を研究している者ですが、遺跡を訪ねた後、街中に出ることをもう一つの楽しみにしています。街中でふと目にした情景を無意識にカメラに収めた映像を展示していきます。時間も場所も任意です。

古都洛陽の閑静な空間にて

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洛陽の町に着くなり訪れた場所がここだった。時間は午後1時半頃。当初の予定ではもっと遅い時間に着くはずだったのだが、北京の王府井で閲兵式が行なわれる関係で、予約しておいたホテルが臨時休業となり、急遽別のホテルに移らざるをえなくなったのが一つ。もう一つの事情は、飛行機の時間も午後の便だったのを早朝の便に変更されてしまったことである。嫌なら飛行機に乗るなと言わんばかりの促し方で、不承不承の変更であったが、おかげで朝一番のリムジンバスにも乗れず、タクシーを呼ばざるをえなくなった。その間の交渉ややりとりそのものは面白かったのだが今は省くとして、こうしてやってきた洛陽の町を朝の十時から歩くことができたのは予定外の収穫ともいえた。

 ここは紗廠路と建国路との交叉点から北へ少し行ったところだが、閑静な庭園になっている。庭園に配置されているのは、青銅器が多数出土した洛陽に相応しく、青銅器の複製品かと思われるような精巧な置物や青銅器の紋様が巧みに彫刻された柱や敷石などで、古代洛陽の面影が漂う実に贅沢な装飾である。そういえば洛陽博物館も青銅器の簠(ほ)の形に模した建物である。私がここを訪れたのは高級マンションを見学するためではなかった。考古学的には五女冢遺跡と呼ばれる殷代末期以来の遺跡だったところである。この直ぐ南側に鼻くそのような小さな城壁跡が残っていたのを屏越しに見、写真に収めてきたところである。成周洛陽の北西角の城壁の直ぐ北側、つまり成周洛陽の北限に当たる。それを自分の脚で歩いて確かめて来たところである。

 ここに来るまではひょっとして発掘中かも知れないと多少期待を持っていたのだが、現地に来てみると、発掘していた遺跡は埋め戻され、その後に高級マンションが建っていたので驚いた。マンションの名は天城一品。実は予めグーグル地図と中国百度の地図とで見ていて、地図上には天城一品の名が記されていたのを、何となく大きなレストランなのだろうかという予想をもってやってきたのがこれだった。レストランかも知れないというのは京都の有名なラーメン屋である天下一品と相似た名前であることから、何となくそのように間抜けな連想をしたに過ぎない。現地に来てみると「天城」とは高層マンションの意味であるらしい。この高層マンションはこの場所以外にも建築真っ最中の所があって、この北側にも西側にも大きく敷地を拡げつつある。殷代末期の遺跡があった場所に、経済成長著しい現代中国を象徴するような高層マンションがどんどん建てられていくという構図である。そうして足を踏み入れたマンションの敷地の真ん中に造られた憩いの空間のような庭園がここである。

 一心不乱に画集のようなものに見入っているこの女性が気になって、一度は通り過ぎたのだが、一通り見終えた後でここに戻ってみると、まだ見入っている。現代中国らしい場所に現代中国を象徴するような雰囲気の女性という構図。日本にいて中国を想像する人は、こういう情景とても想像がつかないと思うが、これが現代中国そのものではあるまいかと思う。